医療的ケア児支援法案(仮)

政策学校時代の仲間に誘われて医療的ケア児の支援団体の立ち上げに関わって3年8カ月。2017年の6月に最初の交流会を開催しました。私もこの時が医ケアちゃんとの初めての出会いでした。

 

2017年の厚労省の報告では1万7千人と言われていた医療的ケア児は、3年後の現在、全国に2万人いると推計されています。医学の進歩により助かる赤ちゃんの命は増えたものの、社会的な受け入れ体制は全く追い付いておらず、むしろ不作為の状況でした。NICUを退院したあとはどこに相談して良いかもわからず、気管切開の子は2時間おきの痰の吸引で親は十分な睡眠時間も取れず、仕事復帰したくても受け入れてくれる保育園はなく、「子どもが退院してくるのが絶望だった」と切羽詰まったお母さん達の声を初めて聞くことになったのです。

 

私は第1回目の交流会に先立ち、「医療的ケア児の保育園入園問題」について一般質問で取り上げました。当時の健康こども部長の答弁は「事前に主治医からの病状に関する説明と書面による看護師等への指示が必要であり、看護師などが日常的、応急的な手当てを行う場合については、主治医がそのことを書面により同意していることなどが必要となります。また、万一異常が認められた場合には速やかに主治医と連携をとり、指示のもとに適切な対応をとることが求められます。このような対応ができている場合で、かつ看護師などが配置されている場合には受け入れが可能と考えておりますが、現在、看護師が配置されている保育園は公立全園を含め市内36園中16園となっております。医療的ケア児の受け入れ体制整備の必要性は十分認識しておりますが、現状で看護師や保育士が不足しておりますので、早急な市内全域での受け入れ体制整備については難しいものと考えております。」というものでした。

 

その後も年に2回のペースで交流会を開き、都内での開催であったため、千葉や佐倉市からの参加者がいたわけではありませんが、私は議会で医療的ケア児の問題に取り組み続けました。ケアを行う母親が1人になれる時間がなく親の負担が大きいこと、医療的ケアを理由に子どもの集団生活から排除しないで欲しいという思い、学校に通学できたとしても付き添いを求められ、働きたくても働けないため看護師を保育所や学校へ派遣して欲しいこと、医療、福祉、教育行政の連携がとれていないため情報共有をして欲しいことと言った事は、医ケア児のご家庭が共通してぶつかる課題と認識していたからです。

 

その甲斐あってか、質問を重ねることで執行部の答弁も「医療的ケア児の受け入れ環境の整備につきましては、公立園が率先し取り組むべき課題であるとも認識しております。一方、医療的ケアを必要とする児童の保育につきましては、主治医との連携など、医療体制の整備はもちろん、たんの吸引や経管栄養といったケアやその頻度など、個々の状態を園が把握し、細心の注意を払い、各機関が連携し、実施する必要がございますので、他市の事例も参考に、その課題などを詳細に検討し、実施可能な体制が整い次第受け入れを行ってまいりたいと考えております。」といったものに変わっていき、現在公立保育園で加配の看護師を付け保育園での受け入れを行っています。

 

更に市内の公立小学校で医療的ケアを必要とする児童が受け入れられる事になりました。ただし「保護者の付き添い」が条件です。そのため医療的ケア児の支援に関しては、保健、医療、福祉、教育等の連携の推進が求められているところであり、学校において医療的ケア児が安全に、かつ安心して学ぶことができるよう、医療的ケアを実施する看護師等の配置または活用を計画的に進めるとともに、看護師等を中心に教員等が連携協力して医療的ケアに対応するなどの体制整備に努めていく必要を訴えました。

教育委員会の常套句は「付き添いについては保護者の理解を得ている」です。

 

特別支援学級という制度がありながら、重度で先生方の手を煩わすことが多い児童の保護者は特に肩身の狭い思いをしており、いつ「じゃあうちでは無理だから支援学校に行ってくれ」と言われるかわからない恐怖で、反論することなどできません。私には当事者の方ではなく、そのご友人の方から「毎日学校に付き添っているが、疲れ果てている。何とかしてあげて欲しい」とご相談をいただきます。私も直接お話を伺えば、もっと的確にできる事があると思うのですが、ご本人は議員が入ることで教育委員会にあまりいい顔をされなかったようで、印象が悪くなることを気にしているようです。

とりあえずの支援として福祉部にレスパイトケアの充実をお願いしました。

 

これらの対処療法に対して光明が差してきました。

10月30日に第31回永田町こども未来会議が開催され、私はオンラインで傍聴しました。

医療的ケア児支援法案(仮)が示され、立件民主党の新井聡衆議院議員と自民党野田聖子衆議院議員を中心に、議員立法により今国会での成立を目指します。いよいよ医療的ケア児に対する施策が立法化されることになりました。

手元に資料がないので10月30の朝日新聞デジタルの記事を引用させていただくと「現状では、医療的ケア児は保育園で預かってもらえなかったり、登校する際に保護者の付き添いを求められたりするケースが多い。法案では国や地方自治体に対して、ケア児の保育・教育体制の拡充を求めるとともに、看護師を保育園や学校に配置するなどの「必要な措置を講じる」とした。またケア児や家族の相談に応じる支援センターを都道府県に設置することも盛り込んだ。」

今年の3月には川崎市の医療的ケアを必要とする児童が地域の公立小学校に通学することを拒否され裁判を起こしましたが、原告となった両親の請求は棄却されました。目黒区の女子児童も特別支援学校でも保護者の付き添いを求められ、母親は経済的理由で仕事をやめられないため自宅での訪問学習という選択肢しかないという現状。かたや豊中市では保護者の付き添い無しで医療的ケア児を受け入れ、通常学級で授業を受けています。このような義務教育において自治体間格差があってはなりません。

法律が制定されても基礎自治体が実施できる制度設計や予算の裏付け、人材の確保などの整備がどこまで実現するのか。

・看護師配置における人材確保と人材育成

・学校受入れの際の責任の所在

・保護者の就労を継続させるためには学校受入れに伴い、医療的ケア児等の重度心身障害児を受け入れる学童保育所

・各都道府県に相談支援センターが設置されるようだが、需要に対して運営がひっ迫するのではないかという懸念がある。

基礎自治体とどのように連携していくかを明確にする必要がある

・医療的ケア児のためのケアマネージャーが必要であり、NICU退院前にケアマネを中心に医療、福祉、教育保育等、関係者

による支援プランを作成し、保護者が安心できる材料を整える

 

まだ世間的にも医療的ケア児に対する認知度は高くありませんが、その人数は確実に増加傾向にあることは間違いありません。たとえ今、自分のまわりにいようがいまいが、未来に生まれて来る子ども達のために、安心して生まれてくることができるように、これからも医療的ケア児の誕生を受け入れる社会の構築に取り組んでいきます。